これは神界にて七夜志貴が二度目、衛宮士郎が初めての結婚後、彼らの後を追った妻達が順調に従者から神霊へと昇格していった最中に巻き起こったちょっとした騒動の記憶である。









その朝はいつもと変わる事ないごくありふれた、しかし、かけがえの無い平穏に包まれた一日の始まりとなる筈・・・であった。

「ひゃああああああああああああああああああああ!!」

突如として衛宮邸から響き渡る悲鳴が起こるまでは。

「な、何だ!」

突然の悲鳴に自室から・・・のではなく正門から中庭に飛び込んできたのは家主である士郎。

結婚してからも・・・いや、神界に来てから、もっと正確に言うのであれば生前から士郎は誰よりも速く眼を覚まし、ランニングなどの鍛錬を日課としていた。

神界に来てからは、同じ時間帯に眼を覚ます志貴と共にランニングに加えて組み手・・・と言うよりはほぼ本気の殺し合いに等しいレベルのトレーニング(『象徴(シンボル)』、固有世界を使わないだけで後は実戦そのもの)をこなしてから家に帰るのが日課になっていた。

ちなみにこれは完全な余談であるが、食事に関しては士郎、凛、桜この三人がローテーションを組んでいるが志貴達『九夫人』に比べると作れる人数が明らかに少ない。

と言うのも、志貴達の方は現在においてもまだ尚、封印指定レベルで料理禁止が言い渡されている翡翠(神界に到着した直後、士郎達監修の元作って貰い、アルトリアに試食してもらった所アルトリアが消滅寸前にまで追い詰められ慌てて『全て遠き理想郷(アヴァロン)』で蘇生させた)以外は今も続く士郎の料理教室のおかげでめきめきと上達しているのに対して、士郎達の方はと言えば・・・作るよりも食べる側の比率が多過ぎ、それでも数少ない料理を上達しようとする妻は、士郎や凛、桜の料理教室で学んではいるが、年季の差もあり、まだまだ基礎段階で衛宮家の料理人環境の改善はまだまだ道半ばであった。

それはともかく、この日も一通りのトレーニングをこなし帰ろうとした矢先に突然の絶叫である。

大慌てで家に飛び込んだ。

ほぼ同じタイミングで居間から飛び出してきたのは桜。

「あ!先輩!」

「桜!今の悲鳴は?」

「たぶん姉さんだと思います。朝御飯が出来上がったので皆を起こすと言っていましたから」

「ああ、今日は凛の当番だったな。そうなると皆の部屋か」

そう言いながら靴を脱いで離れに向かう。

この神界に士郎達を狙ってくる刺客など皆無なので襲撃などの心配はしていないが、あの悲鳴はただ事ではない。

しかも悲鳴を上げたのが凛だと言うのであれば尚更だ。

桜を伴い離れに到着すると、やはり凛が廊下にへたり込んでいる。

「凛!どうした!」

「姉さん!大丈夫ですか!」

慌てて駆け寄り声を掛けるが

「ぁぁぁぁぁぁ・・・」

言葉が出てこないのか口を虚しく開閉させ離れの一室を指差している。

「ここは・・・アルトリア?」

指差された部屋の主が誰であるか判った事でシロウの困惑が更に高まる。

何故ならばアルトリアは士郎と婚姻した妻達、通称『剣神の妻』(琥珀命名)の中でもトップクラスの実力を有する。

しかも先日凛に続いてアルトリアもまた神霊に昇格したばかり。

そんなアルトリアが害されるなど想像も出来る筈がない。

だが、凛の性格や態度から自分達をからかっているとも思えない。

ともかくも部屋の様子を見なければ始まらないと判断、士郎はアルトリアの部屋のドアを開く。

「んん・・・ああ、シロウ、おふぁよう・・・ごぶぁいます」

部屋を覗くと丁度アルトリアが眼をこすりながら舌足らずな声でベッドから起き上がろうとしている。

どうやら凛が悲鳴を上げる前後に眼を覚ましたようだった。

「シロウ、リンはどうしたのですが?私を見るなりいきなりすごい悲鳴を上げたのですが」

そう問いかけるアルトリアに士郎はと言えば

「ぇ・・・」

口を半開きにして言葉を失っていた。

「先輩?どうか・・・した・・・ん・・・」

固まった士郎に不審に思ったのか桜が士郎の脇から覗かせるが、言葉の途中で絶句、こちらも固まる。

「??一体どうしたのですか?シロウもサクラも、何かおかしいの・・・ぇ?」

凛、士郎、桜の態度に訝しがりながら不意に視線を下に向けた瞬間、アルトリアもまた硬直してしまった。

何故ならば・・・アルトリアの胸部にありえないものが存在していたのだから。

そう、先日まである筈が無かった豊かな双丘が二つ。

それがアルトリアの寝巻きを内側から引き裂かんばかりに大きく押し上げてその存在を主張していた。

全員がそのままの体勢で固まる事数秒余り、ようやく

「・・・なあ凛、桜・・・」

士郎が口を開いた。

「士郎?」

「先輩?」

「・・・俺、夕べ志貴としこたま飲んで酔い潰れた所為でまだ酒が残っているかな?なんか信じがたい・・・と言うかありえないものが」

「先輩落ち着いて下さい!」

「士郎・・・気持ちは判るけど現実逃避しないで。あんたが匙投げたら私達もどうすれば良いか判らなくなるから」

ようやく再起動を果たした凛と我に返った桜が現実から目を逸らそうとした士郎を引き止める。

「と言うか、夕べは志貴の所に行くどころか酒なんて一滴も飲んでいないでしょう。ゆ、夕べはそ、その・・・わ、私の番で・・・普通に二回、あと・・・私に穂群原の・・・制服・・・着せて・・・五回もした・・・癖に」

この凛が言い放ったカミングアウトに桜が過敏に反応した。

「先輩!!ずるいです!!そんなうらやましい事を姉さんとするなんて!それなら次の私の番には弓道部時代の道着を用意しますからそれで!」

「いやいやいや!桜落ち着け、凛も判ったからこれ以上桜を刺激するなって!」

妙な方向で興奮した桜と暴露話を始めた凛をなだめようとする士郎の背後で何かが弾け飛ぶ軽快な音が聞こえた。

思わず振り返るとそこには・・・

「あ、メロンとさくらんぼ」

現実逃避寸前であった事もあり、無意識に思わずそんな事を呟いた士郎は咎められるべきではないだろう。

アルトリアの寝巻きが大きくはだけて、異変の源たるアルトリアの豊満な母性の象徴が士郎達の眼に露になっていたのから。

状況と直前の音から察するに内側からの圧力に耐え切れなくなったボタンの糸が引きちぎれたのが原因だろう。

だが、そんな一言に全員の時は動き出し

「き、きゃあああ!」

アルトリアは思わず女性らしい悲鳴を上げて胸元を両腕で隠し、

「何エロ親父みたいな事ほざいているのよ!!アホ士郎!」

凛の掌打が士郎の顎を見事にヒット。

「先輩のエッチ!!」

申し合わせたタイミングで桜が仰け反る士郎の首を両手で掴むやその勢いのまま首を軸に士郎を投げ捨て、見事に顔面から廊下に叩きつけられた。

プロレスの技で言う所のフライングメイヤー、これのリバース版だと思ってもらえれば良いだろう。









「いててて」

想定外の騒動の第一波からしばらく後、士郎は姉妹の見事なコンビネーションで若干赤くなった顎と鼻を冷やしながら所在無さげに居間にいた。

「大丈夫か?士郎」

そんな盟友を気遣うのは志貴。

「大丈夫、少し赤くなったって程度だから。口は災いの元だって再認識できたよ」

あの後、凛の悲鳴に何事かと集まった残りの『剣神の妻』達はアルトリアのそれを目の当たりにして揃って絶句し、それから蜂の巣を突いた様な大騒動に発展(特にイリヤが発狂レベルで大暴れをやらかし)、士郎一人ではどうする事も出来なくなりかけた所でただ事ではない大騒ぎを聞きつけたのか『七星館』から志貴達までもが駆けつけ、この大騒ぎを力技で鎮圧。

ようやく落ち着いた所で凛が話を聞く事にしたのだが、アルトリア曰く『夕べまでは特に異常は無かった。朝方やけに胸元が窮屈な感じはしたが、リンの悲鳴でようやく自分の身に起きた事に気付いた』との事だった。

つまりは一晩、そうたった一晩でアルトリアの身体が異常に成長してしまった事を意味している。

それを踏まえて今は女性陣、正確にはシオン、凛、イリヤ、ルヴィアが中心になってアルトリアの検査に入っている。

いくら神霊になったとは言え、たった一晩の急激な成長が霊基に異常をきたしている恐れがあるのではないかと言うシオンの主張に当事者であるアルトリアを含めた全員が理解を示し、このような体勢を取っている。

ちなみに志貴は人様、それも盟友の細君の裸体を見るのは失礼だと自分から、士郎は自分よりは凛達が検査をしてもらった方が良いと志貴よりも速く同行を固辞している。

今は離れのアルトリアの部屋で検査を行っているので二人は士郎が入れた茶を飲みながら結果を待っている状況だった。

「なあ、士郎」

不意に志貴が口を開く。

「??どうかしたか、志貴」

「いや、アルトリアさんの事だけど・・・俺はちらとしか見ていなかったから、俺の気のせいなのかも知れないが」

「ああ」

「アルトリアさんの顔やけに大人びたものになっていなかったか?」

「顔?」

てっきりアルトリアの胸の事を指摘するかと思いきや志貴が指摘したのは別の事だった。

「ああ、なんと言うのか・・・以前見た時と比べてみて以前は少女の顔立ちだったんだけど、今朝見た時は成長した女性の面立ちになっていたような気がしてな」

「・・・そうなのか?・・・実はアルトリアの顔は良く見ていないんだよ。あまりにも胸の方が衝撃的過ぎて」

「ああ、なるほどな」

苦笑する志貴だったが、それ以上は口にしない。

うかつに必要以上を口にすればどんな目に合うのかを士郎の顎と鼻が教えてくれている。

何しろここから離れまでそれなりに距離があるにも関わらず

「うわっアルトリアすごすぎ!これって成長した姉さんレベルあるんじゃない?」

「ちょっと!アルトリア!なによ!この胸は!私に対する嫌味?嫌がらせ!ふざけんじゃないわよ!少し私によこしなさいよ!」

「ああ!もう!どいつもこいつも黙っていなさい!凛!桜!誰でも良いのでイリヤスフィールを拘束するか追い出すなりして下さい!!ぶっちゃけ邪魔でしかありません!!これでは検査が進みません!」

「お待ちください!!お嬢様を邪魔者扱いするとはどう言う事ですか!明確な説明を求めます!」

「邪魔者を邪魔者と言って何が悪いと言うんですか!」

明らかにヒートアップした面々の怒号と罵声が飛び交っている声がここまで聞こえてくるのだから

「・・・志貴うちのイリヤがすまん」

「いや、俺もシオンが興奮して悪い」

どちらが悪いと言う訳でもないが、二人は互いに謝罪していた。









罵詈雑言飛び交う、下手な修羅場よりも心臓に悪い検査が終わり全員が居間に戻ってきたのはそれから一時間後の事だった。

「シオンお疲れ様」

そう言いながら志貴は『九夫人』達にお茶を入れて、士郎は凛の作った朝食を暖め直し(この騒ぎで全員まだ食べていない所為ですっかり冷めてしまっていた)、配膳などの用意を始める。

「士郎ごめん、と言うか別にあんたは先に食べても良かったのに」

「そうかもな、でも検査が終わらなきゃ俺も碌に飯が喉を通らないような気もしたし」

そう言いながら士郎は改めてアルトリアの顔を見つめる。

「???シ、シロウ?どうかしたのですか?人の顔をじろじろと」

困惑しながら問いかけるアルトリアだが今はリーゼリットのメイド服を着ている。

なぜかといえば当然の話で、今のアルトリアでは昨日まで来ていた服は到底入らず、無理に着ようとすれば

そこで、アルクェイド、アルトルージュ、シオン、桜、メドゥーサ、リーゼリットと言う『九夫人』と『剣神の妻』の中でも胸部に恵まれたメンバーがそれぞれの服を見繕ってきたのだがリーゼリット、アルトルージュ以外では『胸がきつくて入らない』との言葉で二人のうちどちらかの服を借りる事にしたのだが、アルトルージュのそれは胸元が強調された上に露出したドレスばかりで、いくら身内ばかりでも着る事に抵抗を覚え、使用人の服ではあるが、まだ露出の低いリーゼリットのそれを借りる事にした。

「ああ、確かに志貴の言う通りだ」

アルトリアを見ながらの一言に全員が注目する。

「??先輩、志貴さんがどうかしたんですか?」

「いや、志貴が言っていたんだよ。アルトリアの顔が大人びて無いかって。だから改めてアルトリアの顔を見てみたけど。確かに昨日に比べて大人びた顔つきになっていたからそれでな」

そう言われ凛達が改めてアルトリアの顔を見遣ると、確かに昨日に比べて大人びた顔つきをしている。

「本当だ」

「確かに志貴ちゃんの言う通りですね、翡翠ちゃん」

「そう言われてみれば確かに」

「でも志貴すごーい!そんなとこも判るなんて!」

「いや、判ると言うか、いつも会っている訳じゃないから違和感を覚えたってだけだし」

「ですがお見事である事に変わりはありません。一目見ただけでそんな事までも判るとは、女性に卑猥な発言する誰かさんとは大違いですね」

士郎を横目でちらりと見ながら意地の悪い笑みでセラが口にするが身に覚えがありまくっていた士郎は苦い表情で

「確かにな。少し・・・いや、相当腑抜けたかもな」

半ば、と言うか本気で反省して肩を落とす士郎を見て、当事者であるアルトリアを含めた大半がセラを責める様な視線を向ける。

「セラ、シロウいじめるの良くない」

リーゼリットですら、口に出してセラを批判する。

「何か問題でもありますでしょうか?私は事実をそのまま」

「セラ、少し言いすぎよ」

最初は涼しい顔をしていたセラであったのだが、主であるイリヤからも責める視線と冷たい声で叱責を受けた事で慌てて

「い、いえ、べ、別にエミヤ様の事を言ったのではなく・・・も、申し訳ありません言葉が過ぎました」

前半は弁解を言おうとしていたのだが、居た堪れなくなったのだろう後半は謝罪の言葉を口にしていた。

「とりあえず食べながらで良いなら話を始めるけど士郎良いか?」

迷走し掛けた場の空気を志貴が強引に戻す。

「あ、ああ悪い志貴。始めてくれ。それでシオンさん、アルトリアの霊基は」

「は、はい・・・それが・・・」

そういうシオンの表情は極めて冴えない。

「っ・・・もしかして」

シオンの表情から最悪の事態を察したのか士郎の表情が強張る。

「いえ、士郎が考えている事態とは真逆なんです」

しかし、シオンの返答は士郎の予想とは全く異なるものだった。

「真逆?」

「はい、異常が無いんです」

「異常が無い?それは安心すべき事では?」

「いいえ、無いというよりも無さ過ぎるんです。アルトリアの霊基を調べ尽くしたのですが、異常は無論の事、負荷すら見られませんでした。あらゆる可能性を突き詰めて調べても見ましたが、どれもこれも異常も負荷も見つかりませんでした。どう考えてもこの神界に来る以前から、いいえ生前から正常に成長していなければ説明がつかないんです。ですが」

「ありえません!!」

シオンの説明にアルトリアが声を張り上げる。

「私の身体は」

「はい判っています。アルトリア貴女は生前選定の剣を抜いた事で肉体の成長が止まっている事を。だからこそ貴女の現状は矛盾そのものなのです」

成長が止まっているにも拘らず成長している。

完全に矛盾したそれに全員が無言を貫く。

「・・・シオン、お前から見て異常の原因に見当はついているのか?」

「いいえ、志貴、残念ですが見当がつきません。と言うよりも現状情報があまりにも乏しすぎます。神霊となっていれば話は違っていたのかも知れませんが、分割思考をフル回転させても仮定だらけの仮説を出すのが精一杯です。ですので」

「俺達から話を聞いて原因を探ろうと言う事ですか?」

「はい、昨日までアルトリアと行動を共にしていたのは士郎達です。ならば士郎達の話をまとめてみれば何らかの原因が掴めるのではないかと思うのです」

「判りました。そう言う事でしたら俺達も全面的に協力します」

士郎の即決に凛達も当然のように追従した。









そして数時間後、

『・・・』

一同は渋い顔をしていた。

あれから士郎達はアルトリアとの日常を取りまとめてみたのだが、別段おかしな所は見つからない。

朝はほぼ同じ時間帯に眼を覚まし、着替えてから道場で精神統一、その後、朝食を食べてからは道場での素振りなどで自主連に取り組み、昼食を食べた後は外を出歩きつつも自由行動、夕食後は士郎、メドゥーサ、時折『九夫人』からアルクェイド、アルトルージュとの模擬戦で汗を流し入浴後、就寝。

士郎との閨の折は入浴後、士郎の部屋に赴くか士郎がアルトリアの部屋を訪れ、アルトリアは士郎に抱かれて再度入浴後(この時も士郎と共に入浴する、その時に再度抱かれる事もある)就寝する。

若干の時間帯のずれは存在するが別段注視するほどのものでもない。

後は、今朝はアルトリアにしては遅い時間に眼を覚ました事も気にかかったが、このような事でアルトリアの身体に異変が生ずるなら、起きる時間がまちまちなイリヤはとっくの昔に成長しきっている筈だ。

洗い出せれる事柄は出し切った感もあり、完全に士郎達は手詰まりに陥っていた。

「アルトリアの生活リズムに不審な点は見つけられません。そうなると、アルトリアの異変の原因は別の所にあるのでしょうか・・・」

シオンも途方に暮れた様に疲れた表情で呟く。

と、その時、メドゥーサが何かを思いついたような表情で

「シロウ、シオン一つ宜しいでしょうか?」

「ああ、どうしたんだ?」

「何か思い出したことでも?」

「いえ、そうではありません。一つ提案がありまして、テレビの刑事ドラマなどで言っていた事を思い出したのですが捜査に行き詰った時は現場に戻るべきだと」

「現場?・・・というと・・・アルトリアの部屋?」

「はい、全員で調べてみても昨日アルトリアが寝るまでは何一つ異常はありませんでした。そうであるならばアルトリアが就寝してから何らかの異変が生じたと見るのが普通です。それなら」

「そうか・・・それならアルトリアの部屋に手がかりがあるかも知れないと言う事か」

「はい」

「でも先輩、あの時アルトリアさんの部屋はいつも通りの整理整頓されたアルトリアさんの部屋でした変わった所はなかったと思いますが」

「でも桜よく考えてみて。今朝私も桜も士郎もアルトリアの異変に意識をほとんど持っていかれて、周囲に気を払うなんて事はろくに出来なかった。メドゥーサの言うように何かを見落としていたとしても不思議じゃないわ。一回調べてみるべきよ」

「そうだな。うん、このままじゃ埒があかない、行ってみよう。とりあえず大勢で行っても仕方ないから俺とアルトリア、凛、桜それとシオンさんでお願い出来ますか?」









士郎に指定された一行は早速アルトリアの部屋に向かう。

結論を言えばこれでも大人数とも言えた。

何故ならば部屋に入って僅か数分後、異変の源を見つけたのだから。

それを発見したのはシオンだった。

「??士郎、アルトリア、これは何ですか?」

戸惑ったような声を発したシオンを見ると彼女の手には見慣れない一本の槍がある。

形状としては中世の騎乗した騎士が持つ突撃槍、ランスに近い。

シオンにはそれが何なのかわからなかったが、士郎はその槍を見るなり表情を一変させた。

何故ならば士郎も槍をここでは見た事がない。

だが、それが何なのかはあまたの平行世界の修行経験から知っていた。

「え?なんで・・・これが・・・・アルトリア!ちょっと!」

「どうかしたのですか?シロ・・・ウ・・・!!」

士郎に呼ばれ怪訝そうな表情だったが、槍を見た途端絶句するアルトリア。

そしてただ事ではない雰因気の二人に何事かと集まった凛達も困惑する。

「やっぱりか?」

「はい、間違いありません。これは・・・シロウ、これを何処で?」

「シオンさん、これは何処にあったんですか?」

「これですか?これはそこに立てかけていましたが」

そう言って指差した先はベッドの脇、入口から見るとちょうど死角になっており、少しちら見した程度では見つける事は出来ないだろう。

「こりゃアルトリアに意識が集まってたから見落としてたな」

「ですね。ここで検査していた時にも外野が大騒ぎしていましたので見つける所の騒ぎではありませんでした。それよりも士郎、アルトリア、貴方達はこれがなんなのか知っているのですか?」

「ああ、こいつはロンゴミニアド」

「私が生前アーサー王としてブリテンを統治していた時、所有していた聖剣エクスカリバーと双璧を為した聖槍、エクスカリバーと同じ神造兵器です」

シオンの問いに士郎とアルトリアが答え、

「そして・・・これがあると言う事は、おそらくロンゴミニアドが私の異変の原因だと考えられます」

そう断言した。

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